会社の未来を左右するM&A(Mergers and Acquisitions:企業の合併・買収)。
近年は後継者不在の問題や事業拡大を目指す中小企業にとっても、M&Aは有力な選択肢となっています。
そんなM&Aを始めようとする初心者(BEGINNERS)が最初に頼るのが、M&Aプラットフォームや仲介会社です。
しかし、その「利用条件」を深く理解しないまま話を進めてしまうと、思わぬトラブルや想定外の費用に繋がる可能性があります。
この記事では、M&Aのプロフェッショナルが、M&Aプラットフォームや仲介会社を利用する際の「利用条件」について、契約形態から料金体系、注意すべき専門用語まで、初心者にも分かりやすく徹底的に解説します。
安心してM&Aの第一歩を踏み出すために、ぜひご一読ください。
M&Aの始め方:プラットフォームと仲介会社、あなたに適しているのはどっち?
M&Aを進める際のパートナーは、主に「M&Aプラットフォーム」と「M&A仲介会社」の2種類に大別されます。
それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合ったサービスを選ぶことが重要です。
M&Aプラットフォーム:オンラインで効率的に相手探し
M&Aプラットフォームは、インターネット上で売り手と買い手を繋ぐマッチングサービスです。
例えるなら、「企業の売買に特化した巨大なオンライン市場」のようなものです。
多くの買い手候補に匿名でアプローチできるため、自社の価値を客観的に測りやすいというメリットがあります。
一方で、交渉や手続きの多くを自社で進める必要があり、M&Aに関する一定の知識が求められます。
M&A仲介会社:手厚いサポートで成約まで伴走
M&A仲介会社は、専門のアドバイザーが売り手と買い手の間に入り、交渉から契約書の作成、クロージング(最終契約の締結)までを一貫してサポートするサービスです。
いわば、「M&Aの専門家が専属で付いてくれる結婚相談所」のような存在です。
専門的な知見に基づいたアドバイスを受けられるため、初心者でも安心して手続きを進められますが、その分、後述する成功報酬などの手数料はプラットフォームよりも高額になる傾向があります。
【最重要】M&A利用条件の核心!契約形態を理解する
M&Aサービスを利用する際、最初に結ぶのが「アドバイザリー契約」や「仲介契約」です。
この契約形態には、今後の動き方を大きく左右する2つの種類があります。
専任契約:一社に全てを託すスタイル
専任契約とは、特定のM&A仲介会社1社にのみ、M&Aのサポートを依頼する契約形態です。
この契約を結ぶと、他の仲介会社に依頼したり、自分で見つけた相手と交渉したりすることは原則できなくなります。
専任契約のメリット
仲介会社は自社だけが頼られているため、より熱心で手厚いサポートを提供してくれる傾向があります。
情報漏洩のリスクも、窓口が一本化されることで低減できます。
専任契約のデメリット
担当者の能力や相性が悪かった場合でも、契約期間中は他の選択肢を探すことができません。
いわゆる「囲い込み」状態になり、紹介される相手がその仲介会社の顧客リスト内に限定されてしまう可能性もゼロではありません。
非専任契約:複数の選択肢を保持するスタイル
非専任契約は、複数のM&A仲介会社と同時に契約できる形態です。
M&Aプラットフォームの多くはこの形態を採用しています。
非専任契約のメリット
複数の窓口を持つことで、より多くの候補先と出会える可能性が広がります。
各社の提案を比較検討できるため、自社にとって最も良い条件を引き出しやすくなります。
非専任契約のデメリット
仲介会社からすると「他で決まってしまうかもしれない」ため、サポートの優先順位が下がる可能性があります。
また、複数の会社とやり取りする手間が増え、情報管理も煩雑になります。
料金体系のカラクリ:M&Aで発生する手数料の種類と相場
M&Aの利用条件で最も気になるのが費用面でしょう。
手数料は主に「着手金」「中間金」「成功報酬」の3つで構成されています。
着手金(リテイナーフィー):契約時に支払う初期費用
着手金とは、M&Aのサポートを正式に依頼する際に支払う費用です。
M&Aが成約に至らなくても返金されないのが一般的で、相場は無料から数百万円と幅広いです。
これは、仲介会社が企業の価値を評価する資料を作成したり、相手先を探したりするための初期活動費と考えると分かりやすいでしょう。
近年は着手金無料の仲介会社も増えていますが、その分、成功報酬が高めに設定されている場合もあります。
中間金(マイルストーンフィー):特定の段階で支払う費用
中間金は、M&Aプロセスの中間地点、例えば「基本合意書(MOU)」を締結したタイミングなどで支払う手数料です。
これも着手金と同様に、最終的にM&Aが成立しなくても返金されないことがほとんどです。
成功報酬の一部を前払いする位置づけで、相場は成功報酬の10%〜20%程度が一般的です。
中間金があることで、仲介会社は成約に向けてより真剣に取り組むインセンティブが働きます。
成功報酬(サクセスフィー):M&A成立時に支払う成果報酬
成功報酬は、M&Aが最終的に成立した場合にのみ支払う手数料です。
M&Aの手数料の中で最も大きな割合を占めます。
レーマン方式:世界標準の成功報酬計算方法
成功報酬の計算で最も広く用いられているのが「レーマン方式」です。
これは、取引金額(会社の譲渡価格など)に応じて、定められた料率を掛けて算出する方法です。
【レーマン方式の計算例】 ・取引金額の5億円以下の部分 → 5%
・5億円超〜10億円以下の部分 → 4%
・10億円超〜50億円以下の部分 → 3%
例えば、取引金額が7億円だった場合、
(5億円 × 5%) + ((7億円 - 5億円) × 4%) = 2,500万円 + 800万円 = 3,300万円
という計算になります。取引金額が大きくなるほど料率が下がるのが特徴です。
最低手数料
小規模なM&Aの場合でも、仲介会社は一定の手間がかかるため、「最低手数料」が設定されていることがほとんどです。
例えば、レーマン方式で計算した結果が300万円でも、最低手数料が500万円に設定されていれば、支払う額は500万円となります。
契約前に必ず確認すべき重要な項目です。
見落とし厳禁!利用条件に関するその他の重要事項
秘密保持義務(NDA):M&Aの生命線
M&Aの検討段階では、自社の財務情報や事業計画といった、外部に漏れてはならない機密情報を相手方や仲介会社に開示する必要があります。
そのため、情報の取り扱いを定めた「秘密保持契約書(NDA: Non-Disclosure Agreement)」の締結が不可欠です。
利用条件に秘密保持に関する条項が含まれているか、どのような情報が秘密情報にあたるのか、その有効期間などをしっかり確認しましょう。
情報の正確性と免責事項:自己責任の原則
M&Aプラットフォームや仲介会社から提供される相手企業のリストや情報は、あくまで判断材料の一つです。
多くの場合、利用規約には「提供情報の完全性、正確性を保証するものではない」といった免責事項が記載されています。
最終的な判断を下す前には、必ず「デューデリジェンス(DD)」と呼ばれる、企業の詳細な調査を行う必要があります。
デューデリジェンスは、いわば「企業の健康診断」。
公認会計士や弁護士などの専門家に依頼し、財務や法務のリスクを徹底的に洗い出します。
禁止事項と違約金:「中抜き行為」は絶対NG
利用規約には、必ず禁止事項が定められています。
特に注意すべきなのが「中抜き行為」です。
これは、仲介会社やプラットフォームを通じて紹介された相手と、そのサービスを介さずに直接取引を進め、手数料の支払いを免れようとする行為です。
これが発覚した場合、成功報酬の数倍に相当する高額な違約金を請求される可能性があります。
信頼関係を損なうだけでなく、法的な紛争に発展する重大な契約違反ですので、絶対に行ってはいけません。
まとめ:利用条件の理解が、成功するM&Aの第一歩
M&Aプラットフォームや仲介会社の利用条件は、一見すると複雑で難しい専門用語が並んでいるように見えるかもしれません。
しかし、今回解説した「契約形態」「料金体系」「秘密保持」「免責事項」といったポイントを押さえることで、その内容は深く理解できます。
利用条件を正しく理解し、内容に納得した上で契約を結ぶこと。
そして、信頼できるパートナーと共に、誠実にプロセスを進めていくこと。
それが、M&Aという重要な経営判断を成功に導くための、最も確実な道筋となるでしょう。
この記事が、あなたのM&Aの始まり(BEGINNING)の一助となれば幸いです。
M&A BEGINNERS 利用条件